津波の衝撃

『魔の10日』9日目。
先週の最初の波が過ぎた後、再び波は来るかもしれないが、少しずつ小さくなっていくのだろうと思っていたけれど、今度のは津波だった。


その電話がなったのは、『魔の10日』も残すところ1日と10時間、私はとても疲れていていて、昼寝をしようとしたときだった。
電話に出た夫の声で、相手はソーシャルワーカー、しかも良くない知らせである事はすぐに感じ取る事ができた。肉体的に疲れて寝たいのに、私の心臓の鼓動はどんどん激しくなる。

産みの母が再び赤ちゃんを返して欲しいと言って来た。
前回のように、取り戻せないのは分かっているけれど、一目会いたいというのとは異なり、今度は本格的にかなり攻撃的に返して欲しがっているようだった。
本来ならば、まだ有効期限内なので、そう言われたらどんなに悲しくても、どんなに辛くても”娘”は手放さなければならない。
しかし、妊娠中に産みの母に暴力をふるった、赤ちゃんの父親であるボーイフレンドと産みの母が、どうやらこの1週間で寄りを戻していたらしい。この暴力事件のため、ソーシャルワーカーとしては、『はい、どうぞ』と赤ちゃんを返す事は出来ず、児童福祉施設へ連絡する、と伝えたところ、産みの母逆上。
「裏切り者」と、ソーシャルワーカーをかなり激しくののしった後「ファック・オフ!」と言って電話を切ったという。


一晩経った現在、まだ何も連絡は無いが、産みの母の動きに寄って、児童福祉施設へ連絡しなければならない場合、今回の養子縁組は取り消され、赤ちゃんは産みの母の元へ戻るが、児童福祉施設の職員が審査した結果、子供にとって望ましくない環境であると判断された場合赤ちゃんは里親に出される。
その後私たちが再び養子縁組の手続きを始めからやり直す、という形になるらしい。
ただし、児童福祉施設が問題無しと判断した場合は、この子とはお別れということになってしまう。
私たちには成す術も無い事は分かっていたけれど、暴力沙汰で病院へ運ばれた時、警察に通報しなかったのが、私たちにとって悔やまれる結果になってしまうかもしれない。


先週の衝撃よりも強い衝撃。
先週の面談も、その後のメッセージも、あんなにポジティブで前向きに終える事が出来たのに、あんなに美しい顔を見せてくれたのに、この1週間でいったい何があったのか、辛いのはわかるけれど、そこまで産みの母が豹変してしまった理由がわからない。
これまであんなに現実的だったのに、自分が育てようとすれば、きっと最終的に里親に出されてしまう、そのことを誰よりも恐れていたのに。

産みの親とは良い関係で行けそうだったのに、彼女の中で突然、養子縁組エイジェンシーは『敵』、私たちは赤ちゃんを奪った夫婦という図式が出来てしまったような気がする。
ソーシャルワーカーの話では、赤ちゃんの父親であるボーイフレンドの影響ではないか、という。ずっと関係が不安定だったのが、出産後一度は縁を切ったものの、やはり彼女を愛していると優しくして、いつも家に居る様になったようだ。それで、元々赤ちゃんには全く興味が無かったのに、悲しむ彼女を見て、一緒に育てようと言ったのだろう。



このまま電話がならないで欲しい。電話が恐い。朝から心臓がドキドキで、気分がすぐれないまま。時間が経つのが急に遅くなったように感じる。
これが最後かもしれない、と思いながら“娘”のオムツを替え、ミルクをあげ、抱いている。

取り消し猶予期間の失効まで、あと12時間。
神様、どうかこの子を私たちから連れ去らないで...

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