産みの母との面会 6

携帯電話を無くして私たちと連絡が取れなくなっていた産みの母に、共通の知り合いを介して連絡先を伝えると、すぐに彼女からメッセージが来た。
最初に一言、”娘に会いたい”と来るのかと思ったら、娘はどうしているのか、と遠慮がちに訊いて来た。
もうすぐ日本に始めての子連れ帰国をする私たちは、なんとか帰国前に産みの母と会いたいと思っていたので、その事を伝えると、是非会いたいと言う。そして産みの母は、過去にも利用したカフェを面会場に選んだ。


産みの母と娘が会うのは3ヶ月半ぶりだった。
最後に会った時5ヶ月半だった娘は、9ヶ月になっていた。一目で娘の成長ぶりにビックリした様子の産みの母は、とても元気そうだった。すぐに娘を抱かせてあげたけれど、娘は産みの母の腕に抱かれるやすぐに泣き出してしまった。
この頃娘は夫と私以外の他人に抱かれるとすぐに不安そうな表情を浮かべ、私たちに助けを求める様に泣き出してしまう。その事を伝えると、少し残念そうに産みの母は娘を夫の腕に返した。

血の繋がった母親で顔もとても良く似ているのに、娘にとっては目が開いた時にそこに居て、毎日世話をしてきた私たちが両親なのだ、そう思うと嬉しかったが、同時になんとなく奇妙でもあった。ハタから見たら、産みの母と娘が親子なのは明らかだったけれど、娘の態度から私たちと親子であるのも明らかだった。


暫く連絡が無い間、産みの母がまた何かトラブルに巻き込まれたのではないか、ちゃんと目標に向かって前向きに生きているのかと気にしていたけれど、実はトラブルどころか、彼女は着々と良い方向へ進んでいるようだった。
今年アメリカの某有名大学に、特別スピーカーとして訪問出来るかもしれない可能性や、彼女が通っているユースの施設でティーンの先導者(辛い境遇から立ち直り、しっかりと頑張って生きていることから)に抜擢された事、そして来年には大学に入りビジネスを勉強したいという夢を語ってくれた。
始めて妊娠している彼女に会った時、まだ何をしたいのか分からなくて、とりあえず興味がある美容師になりたいから、出産が済んだらそのための学校へ行こうと思っていると言っていた。
出産後しばらくしてからは、カレッジで技術方面の勉強をしようかと思っていると打ち明けてくれたけれど、やはり自分が何をしたいのか分からない様子だった。
そして今回は大学でビジネスを学びたいと言う。多分まだはっきりとやりたい事が分からないままなのかもしれないけれど、毎回目標が少しずつ高くなっているのが、私には嬉しかった。それだけ、彼女が自分の人生に自信が付いて来たということなのだと思った。


自分の目標を明るく話してくれた産みの母だが、同時に私たちと娘に会うのは毎回辛いと漏らした。産んで間もなくの頃とは辛さが違うし、とても会いたいのだけれど、会う度に別れるのが辛いし、まだ娘を手放した苦しみからは完全に解放されていないと言った。そして自分の産んだ娘がどんどん他人になっていってしまう、その事が産みの母にとってはまた辛いようだった。
それでも別れ際、産みの母は私に「あなた達が幸せで、私もとても嬉しい。」と言ってくれた。

会う度に、しっかりとしていく産みの母。彼女はきっといつか良い母親になるだろう、また、人間としても自分が苦しんだ分、人の苦しみを理解出来る立派な女性に成長するのではないかと思う。彼女を見ていると、私たちの娘もきっと素敵な女性に成長してくれるのではないかと思えて来る。そして、そうなるように私たちがしっかりと育て、支えて行きたいと思う。


にほんブログ村 海外生活ブログ 国際生活へ にほんブログ村 家族ブログ 養子縁組へ  人気ブログランキングへ