苦しむ産みの母

養子縁組は感情のジェットコースター。


「魔の10日」2日目が終わりに近づいてきた一昨日の晩、エイジェンシーの担当ソーシャルワーカーから電話。産みの母が赤ちゃんを返して欲しいとメールした来たけれど、何度かのメールでのやり取りの後、赤ちゃんを取り戻せないのは分かっているけれど、どうしても一目会いたいので、面会を設定して欲しいという事になったとの連絡。

12日以来喜びと同時に10日間が過ぎるのを緊張しながら過ごしている私たちだったが、最初の10日はコンタクトを取りたくない、と自ら言っていて、あれだけ決意が固かった産みの母が、こんなに早く”赤ちゃんを返して欲しい”と言って来るとは予想外だった。
ショックと、同時にこの子を早くも失うかもしれないという恐怖、幸せの絶頂から突然突き落とされたような衝撃で、胃の具合が悪くなった。


ソーシャルワーカーの説明によると、これは最悪の状態ではなく、過去にもあったことだそうだ。産みの母が心の痛みに耐えかねている、自分が、産んだ子の人生から切り離されてしまうことを恐れている、そして一目会う事で彼女の心は軽くなるはずだという。
長い会話の後、昨日の12時、エイジェンシーのオフィスでの面会を承諾。しかし私は、逆に会う事でますます手放したくない思いが募るのではないかと心配でたまらなかった。

それと同時に、たった2日間共に過ごしただけのこの子を失うかも知れないと思うだけで、私がこんなにも悲しく思うのならば、39週お腹の中で育て、2日間病室で過ごした産んだ母親は、どんなに胸が張り裂ける思いでいることだろう、私の悲しみよりも産みの母の苦しみの方が余程大きいことは歴然としていた。


午後12時、約束の時間にエイジェンシーへ向かう。
泣きはらした顔の産みの母の目は、入室と同時に赤ちゃんへ。
二人きりの時間を作ってあげるため、私たちとソーシャルワーカーは退室。ソーシャルワーカーから、一足先に行なった産みの母との面談での会話の内容などを聞かさせる。
出産後、ホルモンの変化で強い母性が芽生えた産みの母は、とにかく今感情的になっているため、この時期を乗り越えるため強いサポートが必要な事、そのサポートには私たちも含まれている事、サポートの1つとして、こうして赤ちゃんとの面会の機会を作ってあげるのは、逆に彼女の心を鎮め、物事を落ち着いて考える事が出来るようになる、とのことだった。


およそ1時間後、産みの母が赤ちゃんを抱いて私たちの控えていた部屋にやってきた。
ソーシャルワーカーが、少し楽になったかと尋ねると、小さくうなずく産みの母。赤ちゃんを抱いている間中涙を流していた彼女は、私たちの家で撮った赤ちゃんの写真と、病院で着せていた、赤ちゃんの匂いの付いた毛布や服を受け取り、号泣しながら部屋を後にした。


その晩、産みの母からメールが届いた。
「今日はどうもありがとう。おかげで大分気持ちが楽になった。あなた達ならしっかり育ててくれると分かって安心した。」

そして今朝、エイジェンシーのソーシャルワーカーから電話。
あの後再び話し合いをし、産みの母の痛みが少し和らいだ事、こんなに早く赤ちゃんに会わせてくれて感謝していること、そして私たち二人から、赤ちゃんを取り戻すことなど出来ない、と言っていたことを伝えてくれた。
私たちの担当のソーシャルワーカーも、若い時に子供を養子に出した経験があるだけに、本当に産みの母の気持ちが良くわかり、彼女の支えになってくれている。そして、自らの体験も含めて、「魔の10日」の中でも最も危険な期間はなんとか過ぎだだろうとのことだった。

波はまた来るかもしれない。でも、徐々に小さくなっていくのだろう。
取り消し期間の失効まであと6日半。


にほんブログ村 海外生活ブログ 国際生活へ にほんブログ村 家族ブログ 養子縁組へ  人気ブログランキングへ